はぎの通信 No.31(読書の悦びを知らないと人生の楽しみは半分になる)
はぎの通信 No. 31 (R5. 7.3)
中越高等学校長 萩野 俊哉(はぎの・しゅんや)
読書の悦びを知らないと人生の楽しみは半分になる (Enjoy Reading!)
人間の脳には前頭葉と呼ばれる部分があり、これを切る手術を行うと人間はひどく無気力・無関心になるといいます。高木貞敬氏の著書によると、青年期に本を読まずテレビ(さらに、今の時代においてはスマホなども含まれるでしょう)ばかり見ていると、前頭葉はこの手術を行ったのと同じようになるのだそうです。さらに高木氏は、「頭が良くなるというのは、脳の神経細胞の連絡網がより密になることであり、その9割ができあがる二十歳までにろくに本を読まずに育った人は、連絡網のどこかに欠けた部分ができ、その後の精神生活に大きな影響を及ぼす」と語ります。まさに、本を読むことの意義は計り知れない、と言えましょう。そして、人の一生を思うとき、本を読まないことに伴うマイナスにもただならぬものがあると思います。「私は本を読まない人は信頼しないことにしている」と桑原武夫氏は言います。また、「読書をしない人間は悪人だというのが私の持論である」とさえ言った人もいます。
日常、行動できる範囲が非常に狭いものであるように、私たちが知り得ること、経験できることは、極めて限られたものです。しかし、本は私たちを実に多くの世界へ誘(いざな)ってくれます。私たちは本によって、存在すら知らなかった世界の知識を与えられ、過去に生きた人々のなしたことや考えてきたことを知ることができます。本から学んだ知識は、私たちの精神の血となり肉となって、私たちのものの見方を複眼的にしてくれます。「読書は心の栄養素」と言われる所以(ゆえん)はここにあります。手を伸ばせばすぐそこにあるのに、魅力いっぱいの栄養素に背を向けたままでいることが、どれほど自分の世界を狭いままにすることでありましょうか。
自分が漠然と持っている意見や主張をはっきりした形にしてくれるのも読書です。漱石は「余は、自分のうちにあるものを引き出すために、本を読む」と言っていますが、たくさん本を読んでいると、そのうちに心の琴線に触れる言葉や文章に出くわします。それによって自分のおぼろげな考えを、明確な意見に変えていく。私は、高校生にとって最も大切なことのひとつは、自分の意見をしっかり持ち、それを文章という形でしっかり表せることだと考えていますが、読書をする中でいろいろなことを感じたり考えたりすることができれば、その「感じる心」がいい文章を書けるようにしてくれるのだと信じています。本を読むことは、まさに、感じる心、感動できる心を養い、それを発信できる土台を築くことだと思います。
本はまた、わくわくする楽しみを与えてくれます。ミステリー・SFなどは、作家が知識や「技」を駆使して、いかに読者を楽しませようかと知恵を絞った産物です。マンガや劇画も結構でしょうが、活字を追いながら頭の中でさまざまな情景を想像しながら読み進めるのも、こんなに楽しいことはありません。
「勉強で忙しい」、「部活で忙しい」、「アソビで忙しい」...etc. etc. そんなのはみんな言い訳に過ぎないノダ!さあ、本を読みましょう!!読書で何かを感じたら、君の脳細胞の連絡網を息づかせてくれる、今までとは一味違った充実した日々が送れるでしょう。
以上